報告書『世界の中の和歌―多言語翻訳を通して見る日本文化の受容と変容―』の刊行

2021年2月15日に、2020年9月の研究会・ワークショップ『世界の中の和歌―多言語翻訳を通して見る日本文化の受容と変容―』の報告書が刊行されました。

ご興味のある方はkoten.tagengo★gmail.com(フィットレル・アーロン、土田久美子)までご連絡ください。なお、報告書は無料ですが、送料は着払いで送らせていただきます

※スパム防止のため、メールアドレスの「★」印は「@」にお直しください。


以下、表紙、目次、「まえがき」、「あとがき」を掲載いたします。どうぞ、ご参照ください。





目 次


まえがき……………………………………………………………フィットレル・アーロン 4

翻訳実践―『後撰和歌集】175番歌の多言語翻訳―……………………………………… 5

和歌の本文と概要………………………………………………………………土田久美子 6

コラム①「「ほととぎす」古今東西」………………………………………………吉海直人 8

イタリア語訳……………………………………………………ボラッチ・マルタ・ダフネ 10

英訳………………………………………………………マイケル・ワトソン、 緑川眞知子 14

スペイン語訳……………………………………………………………………高木香世子 20

チェコ語訳……………………………………………………………トムシュー・アダム 24

中国語訳………………………………………………………………………………庄婕淳 27

ドイツ語訳…………………………………………………………フィットレル・アーロン 29

ハンガリー語訳①……………………………………………………カーロイ・オルショヤ 33

ハンガリー語訳②…………………………………………………フィットレル・アーロン 35

フランス語訳…………………………………………………………………飯塚ひろみ 39

ロシア語訳………………………………………………………………………土田久美子 42

討論①…………………………………………………………………………………………… 46


翻訳の先例―『古今和歌集』469番歌の他言語翻訳―……………………………………… 56

和歌の本文と概要…………………………………………………フィットレル・アーロン 57

コラム②「「いづれあやめかかきつばた」」………………………………………吉海直人 60

イタリア語訳…………………………………………………………………ボラッチ・ダフネ 62

英訳………………………………………………………マイケル・ワトソン、緑川眞知子 67

スペイン語訳……………………………………………………………………高木香世子 76

中国語訳………………………………………………………………………………庄婕淳 80

ドイツ語訳…………………………………………………………フィットレル・アーロン 83

ハンガリー語訳………………………………………………………カーロイ・オルショヤ 90

フランス語訳①…………………………………………………………………飯塚ひろみ 92

フランス語訳②……………………………………………………………………常田槙子 94

ロシア語訳・ウクライナ語訳…………………………………………………土田久美子 96

討論②…………………………………………………………………………………………… 108

あとがき…………………………………………………………………………土田久美子 128

執筆者・討論参加者紹介………………………………………………………………………… 129


まえがき


 日本の古典和歌を他の言語に翻訳する際、言語と文化の差異について考慮する必要があることはいうまでもない。言語的特徴や詩形や文化的背景の違いがどのように翻訳に現れ、また日本の古典和歌の表現方法や詩形やさまざまなモチーフがどのように世界各国の言語に再現されたのかについて解明することが重要な課題である。和歌の翻訳と海外における受容については古くから研究がなされてきているものの、英訳と英語圏における受容に重点がおかれていることが現状である。世界中、英語が公用語として用いられている国が多く、日本古典文学の外国語訳の中でも、英訳が最も多いことを見ると、これは当然である。しかし、日本古典文学は世界の中の多くの言語に翻訳されており、それぞれの言語の構造や表現方法、詩歌の常識、また背景となる文化が多種多様であり、複数の言語への翻訳と複数の国、地域への受容、変容を見比べることによって、その伝達の多様性により多面的に迫ることができると考えられる。
 2020年9月3日に行われたオンライン研究会・ワークショップの前半では、1首の和歌の9ヶ国語への翻訳を試み、後半では、別の1首の和歌の9ヶ国語への先行する翻訳を紹介し、それぞれの歌の翻訳に関して出てくる諸問題について、発表者と視聴者が討論をした。和歌の翻訳や文化伝達の問題に直面することは、翻訳実践の過程においてであると思われる。そのため、同じ1首の和歌を9ヶ国語に翻訳し、和歌のそれぞれの言語への翻訳に関する問題点や可能性について考えた。一方、1首の和歌の多言語への先行翻訳を見比べることによって、上述のことに加えて、各言語への受容と変容のあり方が浮き彫りになると思われる。同じ和歌が異なる言語・文化に受容されることによって、受容の新たな側面が明らかになり、翻訳や文化伝達の際、注意すべきいくつかのことも浮上する。
 なお、今回の和歌の選択は、翻訳を実践した歌の場合、外国語訳がまだない、あるいは少ないものであるのか、また、両方の歌の場合にも、和歌文学と日本文化の特徴的なことがらが出てくる、多少代表的なものであるのかによって行った。そこで、和歌の特徴的な修辞法である掛詞、縁語、序詞が用いられている、かつ和歌特有の景物も見られる、勅撰和歌集に入集している歌を選択した。具体的には、どの歌にもホトトギスという日本の夏を代表する鳥が出てきており、『古今和歌集』の歌にはそれに加えてアヤメグサといった、同じく日本の夏と年中行事と関わる植物が見られる。また、翻訳実践対象の歌は、先行する外国語訳がほとんどない『後撰和歌集』の1首、比較する先行翻訳の対象は日本の古典和歌の代表的な作品のひとつであり、多くの外国語訳がある『古今和歌集』の1首とした。
 本冊子には、参加者の翻訳実践と先行翻訳の紹介に関する発表を基にした原稿と、2つの討論の内容を掲載した。今後の多言語翻訳の研究、文学・文化の比較研究などに関して少しでも参考になれば幸いである。
(フィットレル・アーロン)




あとがき


 2020年9月3日、研究会・ワークショップ「世界の中の和歌 ― 多言語翻訳を通して見る日本文化の受容と変容 ―」が無事に開催され、ここに報告書を刊行することができた。
発表者の皆様、ご来聴の皆様に、心より厚く御礼申し上げる。
 また、今回研究対象となった『古今和歌集』469番歌の先行翻訳を手掛けた各国語の翻訳者にも、敬意を表したい。
2020年は、新型コロナウイルス感染症の流行という未曽有の事態に直面した年になった。本研究会・ワークショップも、当初は大阪大学中之島センターでの開催を検討していたが、8月になっても終息せず、オンライン開催への変更を余儀なくされた。
 初の試みで不安もあったが、高木香世子先生がスペインからご参加下さったのを始め、日本のみならず世界各地からご来聴者が集まって下さったという、オンライン開催ならではの利点もあった。これはまさに、世界各国の多言語翻訳を見比べるという本研究会・ワークショップの趣旨にふさわしいことである。
 このような研究会を開催することは、私の長年の夢であった。私は日本文学のロシア語訳を研究してきたが、原文とロシア語訳を読み比べて明らかになったことが、果たしてロシア語訳独自の特徴なのか、それとも外国語訳全般に言えることなのか、判断するためには他の外国語訳全てを調べなければならない。だが、一人の能力には限界がある。
 実際に本研究会・ワークショップによって、「ホトトギス」が「カッコウ」に、「アヤメグサ」が「アヤメ科アヤメ属」(学名Iris)の植物に訳されたのは、ロシア語訳だけには限らないことが明らかになった。日本的な動植物をどのように翻訳するかという問題には、各国語の翻訳者・研究者が共同で取り組む意義があるだろう。
 さらに、討論では、「和歌を何行の詩に訳すべきか」、「五七五七七音節のリズムはどうするか」、「翻訳・研究の際に他の外国語訳を参考にするかどうか」、「多義的な意味の言葉を注釈で説明するか、それとも翻訳のテキストに説明を入れるか」、「ドメスティケーションかフォーリナイゼーションか」といった、どの言語への翻訳においても共通する問題が議論された。
 討論において意見が異なることはあっても、より良い和歌の翻訳を目指し、より多くの人々に和歌を紹介したいという思いは、どの参加者も同じであろう。いわば私達は、和歌の翻訳に対する熱意で結ばれているのだ。その結びつきは今や、国際的に広がっている。
 この絆を今後も大切にしていきたいと思うと共に、本書をお読み下さっている皆様にも、この輪に加わっていただけることを願う。そしてこのような研究会・ワークショップが今後も開催し続けることができるよう、ご協力をお願い申し上げたい。
(土田久美子)

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